利用者がTVの体操を見ていて、「ここは身体を動かすことはあまりしない」と話す。「ご自分ではされないのですか?」と尋ねると、「TVを見ながら一人ではできない」と話される。
ご本人にお名前を伝えてもよいか確認をする。
施設の窓口の方に、体操など、身体を動かす機会の有無について確認する。
「利用者みんなで体操をする機会は無い」との返答を得たため、利用者の思いを施設に伝える。
「わかりました。職員とも検討してみます」と返答があった。
翌月訪問時、職員が「体操をしましょうか」と利用者に声掛けをし、TVのビデオを入れた。身体を動かしたいと言っていた方は、進んで体操を始めた。職員は興味のなさそうな方にも声掛けをして、ホールにいた人で体操を行っていた。
連絡会で「相談活動により改善・対応のあったところ」として取りあげ、内容を共有化する。
後日、他の階でも職員が「体操しましょう」と声をかけ、ホールで体操をしていた。その階の利用者は、「自分のためやから」と体操をすることを他の方にも促していた。
車椅子に座っている時間が長い利用者にとって、身体を動かすことは心身共に心地よく感じられるようだ。日常生活の中で利用者が感じている思いを受けとめ、相談員は施設へ伝えていき、施設もできる事はすぐに対応して頂けることにより利用者からの信頼につながっていると感じた。
現在では、「全員離床」はあたりまえのようになっているが、離床が目的化していて、離床して何をするのか、何のために離床するのかを改めて考えて欲しい施設もある。
特別養護老人ホームのような医療系施設ではない場合、「ここは『生活施設』だからリハビリテーションはしない」というようなことを言うことがある。「生活施設」という意味がきちんと理解されていないともいえるが、「生活施設」であるならばより一層日中活動にどのように取り組むかということが重要になってくる。
ベッドから離床しても車いすに座らせっぱなしであったり、室内清掃やベッドメイキングのために離床させると勘違いしているのではないかと思われる施設もあるが、施設で一般的に使用している車いすは下肢障害のある身体障害者が日々使用する補装具とは使用目的が異なる。
職員の都合で車いすを使用することで、かえって身体機能低下をきたすことがないようにしなければならない。
日々の生活において、日中活動は大きな意味を持っている。一般的に「生きがい」といわれる意欲や動機づけ、生活機能維持や改善など、○○をするために(○○であるために)○○をしようという活動の目標は、施設生活においても欠かすことができない。
介護が必要だから「できない」という思い込みではなく、この施設でどのように生活していくか、この施設で何を獲得していくかという姿勢を利用者がもてるようにすることが施設職員の役割の一つである、という視点も介護相談員には必要である。
この事例のように、「身体を動かしたい」という希望は生活への意欲を表明していることであり、介護相談員の活動をきっかけにして、施設の日中活動への取り組みへの大きな一歩につながっていくことを期待したい。