入れ歯が合わなくなってきて、ガタガタして食べ物が食べづらくなってきて困っている。
事業所のスタッフに相談後、口腔ケアで訪問された歯科衛生師に利用者の状況を伝えたところ、「すぐに先生に知らせておきます」と対応いただく。
始めに話をしたときは、「月2回の歯科検診時に特に先生から何も言われていません。認知症の利用者なので、そのように話されているのではないですか?」と、言われた。
その後の訪問で利用者に、入れ歯の状態を聞いたところ、良くなったと喜んでもらった。
認知症の利用者の話だけでは、なかなか真実が伝わりにくいが、専門的にすばやく対応してもらえ良かったと思った。
利用者の「声」を聞くということはあたりまえのことであると多くの人が言っているが、実際にはなかなか難しいことであり、どのようにすることで利用者の「声」を聴けるのかという質問も少なくない。「声」を聞くためにはいくつかの前提があり、聞くための条件整備が必要である。
まず、利用者に対して予断や偏見を持たないことである。人は、まず、自分の知識や経験の範囲で理解しようとし、自分が理解できない場合には拒絶したり、相手の問題としてしまいやすい。予断を持つと更に相手の言っていることをそのまま受け入れることができなくなったりする。
この事例のように、「認知症だから」ということは典型といえる。かつて、認知症が世間に理解されていない頃は、本人の言葉をそのまま受けとめて家族を非難する事例もあったが、最近では「認知症だから」と言って本人の言葉を受けとめてもらえなかったり、「対応しない」理由に使われたりする場面が多く見られる。まず、利用者本人が示す言葉や行動をきちんと受けとめることが大切である。
心身の変調などに関して考えてみると、本人の自覚症状などはとても重要である。他者から見てわかるような変調を来す前に適切な対応をすることで、安定した生活を過ごすことができる。
医師や歯科医師が問診する場合でも、必ず、自覚症状を尋ねることから始まっている。すべてを医師、歯科医師など任せにして、職員は何もしなくてもよいというのではなく、日常の生活の中で、職員が利用者の心身状況の変調を把握することは業務の一つである。そして、受診の機会などで、利用者本人から直接伝えるように支援したり、代弁したりすることが大切である。
この事例では、介護相談員が代弁したことで事態が好転したが、施設の職員が利用者の「声」にどのように対応しているかについて、気をつけていたいものである。