私はうどんが好きなのですが、ここに入所して、一度もうどんが出てきません。
どうしても食べたいのですが、なぜ出ないのでしょうか?
近くに職員がおられたので、帰り際、利用者の話を聞かれたと思いますが、なぜでしょうか?と尋ねました。
調理場に伝えておきます、との返事。
その後、時々うどんをメニューに入れています、とのこと。
利用者も喜んでおられ、希望が少しでも叶って良かったと思いました。
食事の嗜好は一人ひとり異なっているため、それぞれに合わせることは施設でも苦労していると聞くことは多いが、この事例で考えて欲しいことは2点ある。
1点目は、介護職員が食事の献立について関心が無いと思えるような言動である。毎日食事の支援なども行っているだろうから、当然、日々の献立については知っているはずである。利用者の嗜好、食事における状況(食事量、速さ、食べ残し、食べやすさなど)を常に把握して、生活支援に反映させることは業務の基本であることを考えると、介護職員が無関心なのか、それとも食事に関しては意見が出せないような組織的問題があるのかなど疑問が出てくる。
2点目は、食事の献立そのものがどのようにして選定されているかということである。特別養護老人ホームなどでは委員会などを組織して毎月の献立などの調整や、一人ひとりの入居利用者の状況に応じた献立の検討、食事の状況の確認と協議などをが行われることが多いが、小規模の入居型施設の場合や外部に給食を委託している場合などでは、栄養士や調理担当者に任されたままになっていることもあるかもしれない。
食事は生活の中で大きな位置を占める。栄養や健康管理の面だけでなく、「食の愉しみ」は欠かすことができない。季節に応じた献立や生活史の中に登場する「忘れられない味」、食への関心を高めて話題を紡ぐ「食べ物」など、利用者自身が自分の生活への意欲を高めるうえで大切である。
また、「うどん」ということに着目するなら、汁物の温かさ、喉ごしなどの食べやすさなど、利用者の食に関する健康状態が関係してくるかも知れない。口腔ケアなどにも視野を広げて考えることで、食生活につながる健康の維持改善につながることにも理解して欲しい。
この事例では、相談員の質問から献立の変更があったが、これでよかったと思うのではなく、施設における献立を含む「食への関心」が職員の中でどのようになっているかについても、目を向けて欲しい。