(家族より)
一定期間が過ぎたので、ここ(老健)からほかの施設に移るように言われた。いままではバスで夫の面会に来るのを楽しみにしていたが、今後は遠くなってしまう。もう、面会に行くことができなくなるのではないかと心配だ(80歳代なかばの妻は、足が不自由で杖をつく姿もおぼつかない感じだった)。
施設に相談者の状況を伝え、「市内の施設に移ることができれば助かるでしょうね」と率直に話した。
気持ちはよくわかるが、ここが開くのを待っている人もいる。本人がどこに移るかは、まだ確定していないとのこと。
近くに移れることを願ったが、他県に移った。
妻の苦労を思うと残念だ。夫も気落ちし、活力を失うことだろう。老健の役割が、現在の状況に合わなくなっているように思える。
相談員としてはどうすることもできず、悔いが残るかもしれないが、あきらめるしかない事例である。老健は冷たいと思われがちだが、現在の制度では回復期や移行期の患者を対象とした通過施設としての役割を担っているため、やむを得ない面がある。相談員にできることがあるとしたら、このような事例への対応を地域のケアマネジャー、行政、地域包括支援センターなどに相談して知恵の輪を広げ、利用者が入所できる施設の選択肢を広げるなど、さまざまな可能性をともに模索していくことである。そのためには、相談員が単独で動くのではなく、事務局や地域の人々とのネットワークのなかで活動していくことが望ましい。
相談員がこうした働きかけをすることは、ひいては地域づくり、まちづくりにもつながっていく。地域で生きていくということは、必ずしも“最後まで在宅で暮らすこと”とはかぎらない。施設であろうが在宅であろうが、人とつながって生きていくことが大切であり、その具体化への一歩になると思われる。