施設に通帳(年金振込口座)を預けており、こづかいももらっているが、収支を知らせてもらったことがない。通帳残高が知りたい。
預かり金の収支報告は施設に義務づけられており (?)、収支報告書は家族に送付されていると思われるが、相談者も知りたがっており、施設に開示の要望を伝える。
毎月、利用契約代理人(長男)に収支報告書を送付している。本人が知りたければ、さっそく収支と通帳のコピーを渡すとの返答 。
過去1年間の収支と通帳のコピーを受けとり、預金残高の多さに大喜びしていた。
利用者は施設への要求を遠慮することが多く、施設側も日々の業務の踏襲から抜け出せないため、利用者の要望に気づかないことが多いと感じた。
(?)
入所者の通帳は、紛失などの事故を避けるために、施設が預かって保管する場合がある。しかし、本来は利用者本人、もしくは成年後見人が施設の保管依頼をしない限り、本人が管理すべきものである。このことは、本人の財産を勝手にほかの人が占有することはできないとする民法の基本である。
相談員の対応に「預かり金の収支報告は施設に義務づけられており」とあるが、仮に本人か成年後見人が施設と通帳の保管依頼の契約を交わしているとすれば、預かり金の収支報告は義務うんぬん以前の問題であり、利用者の権利擁護の視点からも当然施設が行わなければならないことである。
利用者が自分の意思をきちんと示すことができるにもかかわらず、本人の意思を無視して収支報告書を利用契約代理人(長男)に送付しているのは問題である。加えて本人に収支を知らせることなく、お金のやり取りが行われていることは、明らかな権利侵害である。
さらに、「本人が知りたければ、さっそく収支と通帳のコピーを渡す」という施設の対応は言語道断であり、通帳の収支報告は常に本人の要望に応じて開示しなければならないことになっている。
このような問題が起こるのは、その根本に施設の利用者に対する偏見がある。つまり、施設に入所しているような人は自分でお金の管理ができない。だから施設が預かるのは当然だという考え方がこの事例に表れているのではないかと思われる。
介護施設全般にいえることだが、利用者の財産や権利に対する認識の遅れは甚だしいものがある。通帳にしても、あくまでも本人のものであるという意識が希薄なのは大きな問題だ。
この事例には、利用者の要望がかなえられてよかった、ではすまされない問題があることを忘れてはならない。利用者の基本的人権に対する理解を深めることは、介護現場において急務といえるだろう。