病院から老健に入所したが、病院でのきざみ食がそのまま老健でも継続されている。一般食ではバナナが出されるが、きざみ食ではデザートとして果物の缶詰を細かく切ったものが多く、できればバナナを食べたい。
事務長と食事について話し合いをしたところ、食事に関する不満などは利用者が直接担当の職員に伝えることになっている。職員が利用者全員に食事に関する満足度を確認することになった。
調理師に相談者の要望を伝えて確認。ご飯やおかずはきざみ食でも、果物はバナナでも大丈夫という了解を得られた。
バナナが出されるようになった。
小さなことだが食事は楽しみのひとつ。家族の差し入れ以外は好物も口にできない利用者にとって、食べたいものがほかの人のメニューにはあるのに自分は食べられないのはつらいことでしょう。もっと細かい配慮ができるようにしたい。
老健でも特養でもおしなべて病院でのきざみ食がそのまま継続される方向にあるが、利用者にとってきざみ食が妥当か否かについては、定期的な見直しが必要であるのはいうまでもない。
この事例で重要なのは、本来きざみ食にするか普通食にするのかは、施設サービス計画(個別の援助プラン)のなかに盛り込まれるべき問題であるという点だ。利用者の健康状態にとってどのような食生活が適切かについては、施設サービス計画のなかで常に意識し、考えていかなければならない。
したがってこの事例のように利用者の訴えを単に「食に対する不満」と捉えるのではなく、本人の嚥下力や咀嚼力を含めて、なぜきざみ食なのか、それが適当なのかという視点で考える必要があるだろう。
施設が相談員の指摘により利用者全員に食事に関する満足度を調査し、ニーズを把握するようになったことは評価できる。ただし、相談員も施設側も念頭におく必要があるのは、単純に「きざみ食だから食べやすい」と考えることで見落としがちな状況があるという点である。実際にきざみ食だとかえって誤嚥を起こしやすい場合もあり、細かなきざみ食だからこそ食事介助が必要になる場合もある。
また、この事例では利用者の訴えは「バナナが食べたい」というかたちで表現されているが、その根底には「なぜ私はきざみ食しか食べられないの?」という思いがある。したがってバナナが食べられたから解決というのではなく、この利用者の介護度は要介護3であることも考えて、利用者の思いに応えなければ本質的な解決にはならない。
同時に介護相談員はこの利用者のその後を見守り、本人の嚥下力や咀嚼力が低下しないように施設がどのような配慮をしているかを、常に目配り、気配りすることが大切である。