入れ歯から菌が入り、口の中が痛くて固形物が食べられず、夜も眠れない。舌をハサミで切って死んでしまいたい。医師の診察はある。
話をよく聞き、「職員に伝えましょうか?」とたずね、本人の了解を得て報告書に名前入りで記入する。医師に病状を説明するようアドバイスする。
利用者の訴えはいつものこと。(1) それより報告書に相談者の名前を記入しないでほしい。個人情報なので問題になる。(2)
名前を記入したことについて、施設側と話し合う。
その後の状況であるが、名前を記入して報告してしまったので、その問題が大きく取り上げられ、そもそも相談を受けた口の中の激痛については大きな改善はなく、現状維持。
他の相談事例で名前を記入しなかったら、無記入では対応のしようがないので記入してほしいと言われた。今回は記入したことで問題になり反省しているが、施設側がどうしてほしいのかがみえない。
(1)
この事例のように、施設から「訴えはいつものこと」と言われるような利用者の場合は、施設がこの利用者の訴えに耳をかさず、対応を放棄している可能性が高い。そのため、相談員が施設を責めるようなニュアンスで相談内容を報告すると反発を招くことが少なくない。
今回の相談員と施設側とのトラブルは、個人情報うんぬんよりも、こうした状況が背景になっていると思われる。このようなトラブルを避けるためには、相談員まず利用者の訴えをできるだけ冷静に伝え、施設の配慮ある対応をお願いするかたちで報告することが望ましい。
(2) 個人情報保護法について相談員が知っておきたいこと
個人情報保護法が施行されてから、介護施設などでは個人情報の取り扱いについてあまりにも過敏になりすぎているきらいがある。そもそも個人情報は本人のものであるから、基本的には本人の同意が得られれば、第三者に情報を提供しても問題にならないことを理解すべきである。
この事例でも、相談員は本人の了解を得て名前を記入しているのだから、なんら問題はない。施設の「報告書に名前を記入しないでほしい。個人情報なので問題になる」という対応は、個人情報保護の本質を理解していないがゆえの過剰反応にすぎない。そのうえで事務局まで個人情報保護法への正しい認識にもとづいた対応ができていないのは困ったことである。
相談員としては、このように個人情報保護の本質を誤解し過剰反応を起こしている施設が多いことをあらかじめ知っておき、それに対する対策を考えておかなければならないだろう。