この施設には売店がない。ちょっとした日用品がほしくても、いちいち家族に頼まなければならない。他の老健には売店があるところも多い。簡単なものを売店で置いてもらえないか。前から要望を出しているが、施設から何の返答もない。
相談者の要望を施設に伝える。さらに、売店の設置がいちばんの望みのようだが、無理なら簡単な日用品が手に入りやすいように、購入希望ノート等で注文を聞いて届けるなど、なにか工夫できないかと提案した。
「検討するので、少し待ってほしい」とのこと。数カ月後に回答があり、売店は設置しないが、利用者の希望に応じて職員とともに買い物に行ったり、喫茶店に出かけるなどの個人対応をすることになった。
今後、買い物や出かける楽しみなどに力を入れていきたいという。
利用者の体調、天候、職員の都合がつくかぎり、希望を聞いて、買い物、外出、喫茶店などに出かけている。利用者は、自分の順番が来るのを大変楽しみにしている。今後は、希望者の外出予定日を各自に知らせるようにする予定。
外出することで、利用者の話題が広がった。また、職員は、外出時に利用者と個別にゆっくり話ができるのでコミュニケーションが深まり、利用者の状態、希望などがよりいっそう把握できるようになったと思われる。
「売店を置いてほしい」という利用者の要望から発展して、買い物や外出など、利用者が外の世界とかかわる方向へつながった点に大きな意味がある。
利用者の苦情や要望は、自分自身の利害に関係したものが多いだけに、内容的にも発展性のないものがほとんどである。しかし、この事例では「売店を置いてほしい」という要望をきっかけに、施設が相談員から工夫を促され、買い物や外出という施設全体の楽しみを広げるイベントにまで発展している。
今後、買い物や喫茶店などへの外出が、地域や商店街と結びついていけば、介護サービスにおける新たな地域資源の開発ができるかもしれない。そうなると、さらに利用者の興味をひくイベントになるだけでなく、開かれた施設づくりにもつながっていく可能性があると思われる。