献体を希望する。私は一人身で、身内もいない。墓はある。認知症にならないうちに決めたい。職員に話をしても動いてくれない。施設抜きで話をすすめてほしい。私の意志は固い。
「あの世に逝くときには必ず職員の世話になる。施設を通さずに話はできない」とくりかえし説明。献体の内容(事務局からの資料による)を説明し、本人納得のうえで施設に報告。
本人の意志がはっきりしているのでなんとかしたいが、離婚した妻や娘がいて面会に来たこともある。なかなかむずかしい問題もあるが、なんとかしたい。
献体に関する資料などを用意してくれた。
一般的に日本社会では、献体については、本人がその旨を遺言(公正証書)として残さないかぎり、実現できるかどうかわからない。 死後のことは、残された家族の意思が優先されるからである。また、遺言を書いたとしても、その執行は家族にゆだねられるため、必ず実現するという保証はない。
その意味で事務局の対応は適切である。献体に関する資料を用意し、あとは本人が、家族や施設とねばり強く話をしていくしかないという判断であろう。
ただし、施設としてはもう一歩踏み込んで、この利用者が献体を希望するに至った背景にある思いを受け止めることが必要である。おそらく利用者の心の奥には、「死後は社会の役にたちたい」という思いがあるのだろう。「施設抜きで話を進めてほしい」と言っていることからも、利用者が施設は自分の気持ちを理解してくれないと思っていることがわかる。
施設は、まず、そうした利用者の思いを受けとめ、きちんと理解したうえで対応することが必要である。