家に帰って自立したいが、施設の医師と姪が許可してくれない。
施設と担当医に対し、在宅で生活するためのリハビリや自宅での生活を試験的にやってみてほしいと提案。また、本人の希望を実現させてあげたいという相談員の気持ちを伝えた。
実際に自宅で自立して生活できるか、介護士が付き添って試験的に数回やってみた。買い物や台所仕事などはできたが、入浴や火の始末は不十分だとわかり、施設に戻ってきた。利用者は、一時的にせよ自宅に帰って生活できたことに満足しており、その後は施設での生活にも落ち着いてきた。
これ以降、施設では、利用者の要望・意見に対して実現不可能と思えることでも、さまざまな方法で利用者のADL向上に向けて取り組んでくれるようになった。
「自立」の意味について、誤解のないよう確認しておきたい。自立とは「自分で何でもできること」と思われがちだが、そうではない。他人の支援を受けながら、自分の生活に責任をもって生きていくことも、立派な自立である。
注目したいのは、担当医や職員がリスクを承知のうえで、「じゃあ、実際に自宅での生活を体験してみたら?」と本人の背中を押してくれたことである。担当医や職員は、最初から無理だとわかっていたはずだが、あえて本人に体験させたことに意義がある。
他人から無理だと言われてあきらめるのと、自分でやってみて、やはり無理だと納得してあきらめるのとでは、結果は同じでも、本人の気持ちのあり方がまったく違う。
なお本事例では、相談員と施設が非常に良好な関係にあり、相互の連携もよく、つねに利用者が希望するサービスを提供するために協力している。施設との関係を考えるうえで参考にしたい事例である。