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介護サービス相談・地域づくり連絡会

壁に作品を飾りたい

壁に作品を飾りたい
老健  88歳  女性  認知症なし  要介護2

【相談内容】

以前入所していた老人保健施設では、いつも貼り絵を作り、部屋の中に飾ったり、施設の廊下や玄関等にも積極的に張り出して頂け、作品を紹介させてもらっていた。
しかし、現在の施設では、入所者が壁などにベタベタと貼り紙をすることを禁止されているため、自分の作品を部屋の壁に貼ることができない。
そのため、次々と作る作品も見てもらう機会が無く、ただ紙袋や引き出しの中いっぱいに押し込んでいた。施設を変わったことや作品発表の機会もないことなどから、ストレスがたまり、以前の施設の時と違って、元気も出ず落ち込んでいる。
以前のように作品を貼りたい。

【相談員の対応】

以前の施設の状況をお知らせすると共に、貼り絵は単なる趣味だけではなく、一生懸命に作った作品をみんなに見てもらうことが生きがいになっていること、考えながら手先を緻密に動かして作品を完成させることが手先のリハビリや認知症の予防・進行を遅らせるのに効果もある事などを伝え、自分の部屋の中だけでも貼れるように検討してもらえないかと伝えた。

【施設の対応】

以前の施設の対応や、相談者の方の気持ちを大切にしたいとの思いから、自分の部屋の中に貼ることを許可。

【改善状況】

相談者の部屋の壁に作品が多数貼ってあり、新たに作品も作り始められた。
その後、相談者のいるフロアーの廊下だけではなく、別の階の廊下の掲示版にも、入所者やご家族、職員へのお花見の案内用にと、大きな「お花見ポスター」が掲示されているのを見つけた。このポスターには、丁寧に作られた桜の花がいっぱい貼られ、「○○作」と、作成者である相談者の名前が書かれていた。
また、その後も各種イベントの案内ポスターなどで各階に作品が掲示され、施設の対応が継続していることを確認した。

【相談員の感想】

相談者の希望を叶えて頂き、更にポスターにまで使用し、各階に掲示してもらったことをとても喜んでおられた。
本件については、相談員として、一人ひとりの思いや希望を大切に受けとめてうまく橋渡しでき、少しは役に立ったのではないかと感じた。

解説・ポイント

利用者の作品を施設内に飾ることについては、いくつかの見方がある。一つは、展示に関する利用者の意向から考えること、二つには、施設の管理上から考えること、さらには、家族や来訪者の視点から考えることなどである。
入所施設や通所施設では利用者の作品を室内の壁一面に展示することがあるが、利用者の意向に関係なく一様に展示することは問題がある。作品展示を積極的に好む利用者もいれば、自分の現状と向き合うことになるため好まない利用者もいる。ひとり一人に意向を確認すればよいではないかという考えもあるが、意思確認が難しい場合もあるため、一律に展示をしないという施設もあれば、希望者のみ展示するという施設もある。希望者のみの作品を展示したとしても、展示を希望しない人にすれば、それらの展示を見ることで、自分の現状などを突きつけられているように思う利用者もいる。それらのことを考えると、作品展示一つをとっても簡単に考えられることではない一面がある。
しかし、だからこそ、施設生活における活動の変化や自立生活への動機づけをどのように施設が認識しているかということにつながることでもあることを理解して、施設の考えを知り、働きかけをしていくことは意味がある。
また、管理的な視点から考えると、長期入所を本来は前提としていない施設であれば、同じ利用者の作品が長期間にわたって展示されるようになることは、施設の目的からして好ましいことではないということもある。部屋の美観上ということから展示を好まないという施設もあるかも知れないが、展示できる作品を作成したりする活動を管理上行っていない施設もある。それらは、それぞれ理由があり、一概に否定されることではないが、まず第一に、施設介護の趣旨が何であるのか、利用者が施設の目的に沿って生活に向き合っていくためには何をきっかけにしていくか、などをふり返ってみることができるようにすることが大切である。
この事例の場合は、老人保健施設において日中活動などで作った作品ということのようなので、施設も目的からしても自立生活への動機づけとなる取り組みをふり返るきっかけとなったと考える。