認知棟からもとの一般棟に戻りたい
【相談内容】
一般棟から認知棟に移動させられた。話し相手がおらず、気がめいる。もとの一般棟に戻りたい。
【相談員の対応】
本人からも施設にその旨を伝えているが、なかなか戻してもらえないらしい。相談員の目からは、あまり認知症は感じられない。その後も訪問するたびに相談され、だんだん表情が暗くなっていくのがわかったので、施設に相談し、なんとか戻してもらえないかとお願いする。
【施設の対応】
(?)認知症になりつつあったので移動したが、一般棟でも十分対応していけると思うので、家族とも相談して決めたい。
【改善状況】
一般棟に戻ることができ、表情も明るく元気になった。
【相談員の感想】
施設は症状や条件などで画一的に対応するが、利用者の気持ちにも配慮しないと質の向上・改善にはつながらない。施設側は1人ひとりの話をじっくり聞くだけの余裕がないのも現実なので、その橋渡し役を相談員ができればと思う。
解説・ポイント
(?)
認知症だから認知棟、そうでないから一般棟というように、機械的に振り分けることは、施設のあり方やサービス倫理にかかわる問題である。
施設は「認知症になりつつあった」というが、では具体的にどのような症状があったのか、また、その症状が認知棟に移る必要があったのかなどを考慮せずに、ただ認知棟へ移すことは、本人の環境に適応しようとする力を奪うことになる。
これは施設の対応によって認知症の症状を悪化させるということにほかならず、人間としての尊厳が傷つけられる本質がここにある。したがって、この事例は単なる施設サービスの質の問題にとどまらず、認知症の人や利用者の人権問題に密接につながるとみることができる。
認知症については、利用者の側も「私は認知症なんかじゃない」とか「認知症の人とはまともな会話ができない」といった一種の偏見をもっていることが多い。だからこそ、認知棟に移されたことにショックを受けるわけである。利用者も施設も認知症に対して正しい認識や、対応(ケア方法)等がないことが、いちばん大きな問題といえる。