利用料を上げないでほしい。
【相談内容】
制度改正で利用料が上がり、家にいる妻と息子(障害者)が生活できなくなる。家に戻れるようリハビリをしているが、妻は家では介護できないと言う。妻は利用料を上げないよう施設にお願いしている。
【相談員の対応】
施設の担当者も契約できず、困っているとのこと。事務局にも報告する。
【事務局の対応】
妻と娘が市役所を訪れ、介護保険と生活保護課が連携して調査・検討したところ、境界層措置制度(利用料の軽減)が適用されることがわかった。(1)
【改善状況】
施設や事務局に頻繁にかかっていた電話もなくなり、利用者は退所せずにすんで安心している。ただ、家に帰る話がなくなったのでリハビリへの意欲がなくなり、毎日を淡々とすごしている。
解説・ポイント
1.
適切な介護サービスを利用しようとすれば、それなりの負担は必要になる。ただし、低所得者などに対する介護サービス利用料の軽減措置制度のほか、この事例で適用された境界層措置制度、生活困窮者に対する生活保護制度などの情報について、介護サービス相談員は利用者や家族に提供していく必要がある。
施設は介護保険制度には詳しくても、関連する軽減措置制度や境界層措置制度については知らない場合が多い。そのため、利用者や家族から介護サービス利用料を減額してほしいという訴えがあっても、「制度で決められていることであり、減額はできない」という対応に終始しがちである。
このような場合、事務局は減額措置制度などの適用基準にある利用者の所得について、行政の税務課や生活保護課の担当窓口に問い合わせるなどの対応も必要になってくるだろう。
2.
改善状況に「家に帰る話がなくなったので、リハビリへの意欲もなくなり」とあることから、この利用者は当初、お金(施設の利用料)のことで相談をしているが、その背景には「家に帰りたい」という気持ちがあったのではないかと推測される。
しかし、介護サービス相談員も事務局も施設にいることを前提として話を進めている。つまり「家では介護できない」という妻の意向が優先され、「家に帰りたい」という本人の気持ちは無視されてしまっているのである。
介護サービス相談員や施設は、こうした利用者の気持ちに対する配慮がほしいところである。
とくに介護サービス相談員は利用者の「心の声」をしっかりと受けとめ、生きる意欲を失わないような支援を心がける必要がある。
【境界層措置制度とは】
境界層措置制度とは、介護保険の利用者負担を軽減すれば生活保護を受けなくてもすむ世帯に対して、介護保険料や介護サービスの利用料の減額等を行う制度である。
境界層とは、生活保護の申請が却下されたり受給が停止されるなど、生活保護を受給するまでには至らないが、経済的に困窮している世帯をいい、これらの世帯には自治体から「境界層該当証明書」が発行される。
「境界層該当証明書」が発行された世帯に対しては、「境界層措置制度」の申請を行えば、生活保護を必要としない段階になるまで、介護保険料や介護サービス利用料の軽減措置が適用される。